最初の衝撃

お客様として会った、ある男性が名刺を差し出して、こう言った。
「そこで作った名刺は、開運できるそうで、10万円払って作ったんです」
私は言葉を失った。名刺に10万円もかけるなんて……。それに、ミシン目が残っているような、パソコンで作る雑な仕上がりだった。高級感はゼロだ。
「開運の効果は素材ですか? マークか何かですか?」
パートナーは興味津々でのぞき込んでいる。
「姓名判断で、よい画数の名前にしてもらって、それで名刺を作るんです」
「じゃあ、命名の費用が高いんですね」
パートナーは遠回しに仕上がりの悪さを突いているが、お客様は気づいていないようだ。
「実は、心春さんは姓名判断が得意なんですよ。これ、どう?」
なんてこと言うの? 悪かったらどうするの?
「あ、大丈夫。お客様の性格タイプは、本当のことを聞けるなら、費用がかかっていても嫌な気分にはならないから……」
私は信じられなかったけれど、お客様も認めたので、画数を計算してみた。
「これはかぶっている数字がありますので、いい画数ではないですね」
「そうですか。では、この名刺を使うのはやめます」と言って、お客様は笑った。
私は信じられなかった。怒らないのか?
この日、お客様は笑顔で帰っていった。これが私の初めての衝撃だった。

心春日和

こはるびより

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